カレンダーが最後の1枚となり、
いよいよの年の瀬、師走、12月を迎えたワケではあるが。
それにしちゃあ、
月の冒頭こそ いきなりの寒波襲来で焦ったものの、
数日も経てば暖かいお日和も戻って来たし。
快適インナーの進化に追いつけ追い越せとばかり、
ダウンジャケットも、
そりゃあ薄くて軽いのに十分温かいという優れものが、
しかもずんとプライスダウンして出回っており。
「まあ、まだそこまでの重装備は要らねぇんだがな。」
普通のスカジャンでも駆け回ると暑いくらいだしと、
本人様は黒とか濃紺で決めたいところだが、
母上の趣味と
売り場の店員さんが
やたら“かわいいvvかわいいvv”と勧めて下さったせいで、
両袖と、袖口や襟、裾のゴム編みのところがシュガーブルー、
身ごろがパールホワイトという愛らしいジャンパーに。
内着はNFLチームのレプリカトレーナーと、
ボトムにはデニム地の半ズボンという、
活発そうないで立ちのとんがり坊やが嘯(うそぶ)けば、
「だよねぇ♪」
柔らかそうなその上、温かそうでもある、
ほやほわした印象の頬をほのかに赤くし、
金髪坊やのお隣、時々遅れそうになりつつも、
待って待ってと一緒に歩むセナ坊が、
にゃは〜と嬉しそうに微笑って相槌を打つ。
こちらさんは、切り替えがアクセントになった
愛らしいデザインジャケットをぶかっと羽織って、
内着はネル地のシャツとコーデュロイのオーバーオールというから。
ご当人のほわほわした可憐な愛くるしさと相俟って、
童話やファンタジーの世界へ
いきなり飛び込んでっても大丈夫という雰囲気であり。
クールビューティちゃんとファニーキュートちゃん、
双方そろった美人さんお二人には、
たまたますれ違ったうら若きお母様なんぞが、
おおっと息を飲んで、二度見に振り返ってしまったほど。
今日はいつもの帰宅コースではなく、
駅前の商店街通りへちっとだけ寄り道している二人であり。
ホントーはいけないことながら、
でもでも、高校生のお兄さんたちとの待ち合わせなので、
せんせーゴメンネの いけない子行為を遂行中。
「早く冬休みになんないかなぁ。」
頬をぷくりとふくらませるセナくんとしては、
進さんたち王城ホワイトナイツが
クリスマスボウルへの出場権をもぎとったもんだから。
他の高校生たちならお休みになっているのに、
まだまだ試合に向けての練習づけという毎日を送っておいで。
喜ばしいことだというのは判るけれど、
子悪魔様のように“じゃあバイクで迎えに来い”なんて
そうそう言えようはずもないセナくんとしては、
試合のある日に応援に行くしかないのが切なくてしょうがない。
せめて自分も、高校生や大学生のように
12月に入ったら休みも同然という身だったら いいのになと、
ぶうぶうとご不満を垂れておいでなのであり。
そしてそんなお声が聞こえたか、
「贅沢言ってんじゃねぇよ。」
クリスマスボウルに行けるだけでも目出度いことじゃんかと、
こちらは…準決勝で辛くも1キック差という負けようをしちゃった、
賊学カメレオンズの鬼軍曹、もとえ鬼コーチ殿。
ランドセルを揺すり上げつつ、
切れ長の金茶色したお眸々を眇めて見せたけれど、
“…まあ、気持ちは判らんでもないがな。”
そもそも、セナ坊やにしてみれば、
アメフトは進と知り合ってから関心を寄せ始めた代物という順番。
なので、何をおいても大事とまでの執着もないし、
それのせいで大好きな進さんに逢えないなんて…と、
恨めしいものの方へ数えてしまっても無理はなく。
ラフティのシフォンケーキやアイスクリーム、
チョコボールに はちみつパンより大好きな、
頼もしくてカッコいい進お兄さんが、
お気に入りの中の一等上へ据えられてしまった以上、
“誰が何言っても聞くまいよ。”
こそり苦笑をこぼす妖一くんだったりし。
「……あvv」
こちら様の商店街も例に漏れず、
クリスマス商戦のにぎわいに満ちており。
赤や緑のリボンや、金銀のモール。
星や天使、ジンジャークッキーのオーナメントに、
点滅する豆電球の光を反射させるグラスボールもキラチカと、
夢のような装飾があちこちで煌き。
小さなセナ坊やも膨れていたお顔はどこへやら、
「うあぁ、凄い凄いvv」
ケーキ屋に雑貨屋に、婦人服店にと、
それでなくとも華やか綺羅らかな店頭が、
念の入った飾られようで、一際にぎやかしくなっており。
「あ、戦隊のヒギアだ。」
「フィギュア、だぞ。」
子供たちの楽園、玩具屋さんの前は
殊の外 華々しい配置のディスプレイが、
行き来するお子様たちを惹きつけてやまぬ。
クリスマスにはあれとこれが欲しいって、
どうかサンタさんにお願いしてねと。
絶賛放映中の変身ヒーローたちが
良い子たちへと語りかけているコーナーもあれば。
ドールハウスにてパパやママと三時のお茶を楽しみながら、
あなたのお家へ連れてってと、
甘えん坊のお顔を見せるウサギさんやクマさんもいて。
「あ、これってまだあんのか。」
「え? ヒル魔くん、知ってるの?」
レッサーパンダやリスさんの家族が、それぞれ暮らすお家ごと、
こまごました雑貨も含めて揃っており。
やさしいパステル色をしたカントリー調のお家シリーズは、
幼稚園世代から大人まで、
少女らの心を捕らえて放さぬ鉄板玩具となりつつあり。
「こえだちゃんと木のおうちだろ?」
「ち〜が〜う〜。」
ここに葉柱のお兄さんがいたならば、
知っててわざとだなと、きっちり突っ込みを入れていようところ。
どちらかと言えば女の子向きの愛らしい玩具なので、
おままごとに関心が向かないクチならば、
そういう的を外したお答えも出かねぬが、
この情報通な坊やが、
こんな簡単なものの名前、知らないはずが無いではないか。
「もぉお〜〜〜、ヒル魔くんたら。」
ぷくりと膨れたセナくんの、
他愛ないほどの無邪気さと可愛さへ。
おやおやと大人のように口許をほころばせた妖一坊や。
勿論、この俺様が知らないはずがないじゃないかと、
お口を開きかかったその拍子、
「これはベーカリと、それを営むクマさん親子のご一家じゃないか。」
…………はい?
真後ろからのお声へ、子悪魔坊やの表情が止まる。
確かに人通りがない訳じゃあないが、
この声には覚えがあって。
「新しいメロンパンの開発に、お父さんクマの団平さんは、
3日寝ないで頑張って。
遊園地へ行けなかった坊やがヘソを曲げてしまっても頑張って、
ヨーグルトチーズ風味の絶品パンを完成させたのだぞ?」
「………はい?」
何ですか、その細かい詳細は、
そして、団平さんといういやに堅いお名前は…と。
出端を挫かれたことへの戸惑いよりも、
そんな話を持ち出したことへの疑問が沸いたのもむりはなく。
だって、その声の主の正体は、
「進さんっ。」
小さなセナくんが“え〜いっ”と飛びついてもびくともしない、
高校最強のラインバッカーさんであり。
待ち合わせの約束をしたお相手が、
いつの間にやら降臨しておいでだったらしく。
ざっくりざんばらな黒髪に、
いかにも男らしい力みが鋭い印象を滲ませる双眸。
何とも頼もしい、がっつりと屈強精悍な青年だってのに、
「メロンパンの開発者って設定は、
一体どっからやって来たのかな?」
大体、このシリーズの動物たちには名前なんざついとらんぞ。
おおお、ヨウちゃんたら一応は知ってるんじゃん。
やかましいわ、ジャリプロ…っと、
セナくんへだけ温和で寛容な仁王様を、
ここまでエスコートして来たらしきアイドルさんへ。
八つ当たり半分噛みついた子ヒル魔くんだったのもまたお約束。
愛らしい恋人さんの好きなものへ通じていて何が悪いかと、
進さん本人はどこ吹く風と泰然としているばかり。
こんな人がエースを張るチームが
高校生らの頂点に立ったりしたなら、
罰が当たるかも知れませんな。(苦笑)
〜Fine〜 11.12.14.
*先週、戦隊もののお話を書いたのですが、
これが“進セナ”の二人だったらどうなるのかなと、
思ったときに浮かんだのが、この“しるばにあ ふぁみりー”でして。
アニメになった“めいぷるたうん”でもよかったんですが、
あっちだと今時の子では判らないんじゃあと、
結果、こうなりました。
進さんはきっと、
セナくんの考えたオリジナルの設定を吹き込まれ、
クマさんのご一家のお話とか、
レッサーパンダさん、ショコラウサギさんご一家のお話とか、
微妙に偏った知識を刷り込まれているんじゃないかと。
(ちなみに、本当に彼らには名前こそ付いておりませんが、
誕生日や好きなもの、趣味という設定は
しっかり設けられているそうです。)
めーるふぉーむvv
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